Harry Kinoshita さんを探して 前編

2021/12/26

私は大学でハリーと呼ばれている。経緯を書くと長くなるが、日本人の友達はニックネームとして使えるし、留学生や外国人の知り合いは覚えやすく呼びやすいので、一石二鳥といったところだ。こうした「イングリッシュネーム」は、香港やシンガポールでは欧米人が発音しやすいという理由で本名と別に持っている人が多く、日本でも子どもの英会話教室などで便宜的に(?)付けられていた人もいるだろう。別の文化圏の名前を持つことに抵抗がある人も多いようだが、私の場合はたかがニックネームと捉えているので、あまり気にしていない。

なお、Wikipediaのページには、こんなことが書いてある...

文化帝国主義は多数派による文化変容の強制とされる一方で個人の自由意志に基づく外国文化の自発的な受容にも当てはまる可能性がある。

それはさておき。

ふと「本名が Harry Kinoshita という人は、実在する(した)のだろうか?」ということが気になった。Facebook や LinkedIn で検索すれば一発なのだが、プライバシーにも関わることなので、根掘り葉掘り調べたり、その結果をここに書いたりするのは憚られる。そこで、既に亡くなられている人物を探してみることにした。

さらに、日本国籍で「木下ハリー」という名前の人がいる可能性はゼロに近いと思うので、対象を「日系アメリカ人」に絞ることにした。日系移民の歴史には昔から興味があり、サンノゼにある日系アメリカ人博物館を訪ねたこともある。移民を乗せた船の乗船名簿や、移民局の記録をもとに、先祖のルーツを探る日系人が多くいることも知っていた。  ネットで調べてみると、Densho Digital Repository というオンラインのデータベースが見つかった。日系アメリカ人コミュニティの非営利団体 Densho が中心となって収集・作成したデータベースで、その中には第二次世界大戦中に連邦政府によって不当に強制収容された日系人の名簿が公開されている。  

なんとも複雑な想いを胸に、Harry Kinoshita と入力して検索してみると ... 見つかった! 恐る恐るリンクをクリックしてみる。

フルネームでは Harry Yoshiharu Kinoshita さんというそうだ。1911年生まれの既婚男性で、両親ともに日本生まれだが、自身はアメリカ生まれなので「日系二世」ということになる。カリフォルニア州ウェストロサンゼルス在住。収容所を出た後はデトロイトに向かったらしい。

Harry という名前を Yoshiharu の haru の発音から取ったのだとすれば、自分のニックネームと同じ名付け方だ。当時の日系二世はラストネームをイングリッシュネームにして、ミドルネームに日本名を付けることが多かったようだ。その方が米国社会で勝手が良いということだろう。

日系人の多くはワシントン州やカリフォルニア州など西海岸に住んでいたので、ロサンゼルスというのは想定内だ。また、終戦後に収容所を出た日系人の一定数は、西海岸に戻らず、シカゴやニューヨークなどに新天地を求めて移り住んだようなので、彼がデトロイトに行ったというのも納得がいく。

データベースは世帯ごとに作られているため、どんな家族がいたのかも見当がつく。生まれた年と性別から続柄を推測してみると、1879年生まれの Aya さんがお母さんだろう。8歳年下の Tomoko さんが奥さんで、1938年に生まれた Dennis さんがお子さんと思われる。お父さんは当時すでにお亡くなりになっていたのだろうか。

当時に想いを馳せてみる。60歳を過ぎた高齢の母親と、妻、生まれたばかりの一人息子を連れて、人里離れた収容所に収容されたのだ。第二次世界大戦当時、日系人は「敵性市民(enemy nationals)」とされ、日本から渡米した一世のみならず、アメリカで生まれて市民権を持つ二世・三世の「アメリカ人」も収容された。31歳にして突如、生活の自由を奪われ、将来の保証もないままバラック小屋に住まわされるなんて、想像もしなかっただろう。ただ、マンザナー収容所には多い時で1万人以上の日系人が収容されており、収容所内での「ご近所付き合い」のような交流は盛んだったらしい。まだ幼い Dennis くんの教育には好都合だったかもしれず、不幸中の幸いといったところだろうか。

さて、Densho のサイトに戻り、母親の Aya さんのデータベースも覗いてみた。1879年生まれで、1906年にアメリカに移民したとのこと。 Widowed と書かれているので、やはりお父さんは亡くなられていたようだ。

機会があれば、Harry さんのお父さんやきょうだいについても調べてみたい。手がかりがあれば、Harry さんのお仕事や、収容所を出た後の足跡も辿ることができたらと思う。

※なお、本文中に記した情報はすべて、オンラインで検索してどなたでもアクセスできます。Densho Digital Repository のプライバシーポリシーは こちら です。


Haruki Kinoshita

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